バブル崩壊後の金融破綻のころ、「ワールドビジネスサテライト」の記者として経済の現場を走り回っていた。
朝、出勤時に証券会社の前に長蛇の行列があり、それを見た人がさらに行列に加わり店を取り囲んでいるのを目撃した。
山一証券の倒産劇は無残だった。
学生時代、専攻していた社会心理学の授業で、戦後初の取り付け騒ぎとなった愛知県の信用金庫事件がいかにして起きたかの検証を受講したことがあった。
下校時のバスの中で女子高校生が何の根拠もなく「あの信用金庫つぶれるかもしれんと家で話していた」とおしゃべりしたことを、たまたま聞きつけた別の乗客が、翌日信金に駆け付けたことから、健全経営だった信用金庫が突然取り付け騒ぎにあったという。
たとえ根拠がなくともいかに情報の拡散が社会に影響を与えるかという講義だった。
根拠がない情報はいまやSNS上であふれている。
取り付け騒ぎの行列というアナログ的情報で始まった過去の事例と比べて、現代ではツイッターで銀行が危ないらしいと聞けば即、インターネットバンキングで預金が一斉に引き下ろされてしまう。
かつての取り付け騒ぎなら銀行のカウンターに札束の山を積み上げて、お金は十分ありますからご安心ください、というパフォーマンスも一定の効果があったようだが、現代では通用しない。
健全銀行でもあっという間に噂によって崩壊する。
例えばコンビニのATMに備えられている現金はたかが知れている。
休日利用客のほとんどは預け入れより引き出しが目的だから、日本全国どこかのATMが一時的に現金がなくなるということもないとは言い切れない。
引き出しができなかったという利用者の噂がSNSにUPされただけで大混乱につながる可能性は否定できない。
欧米で起きている金融不安は日本では大丈夫だと言われている。
しかし、コロナ・ウクライナと続き、人心は極めて不安定である。
フェイクニュースに踊らされないような冷静な対応が求められている。