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テーマ別企業紹介

閉塞マーケットを切り拓く高付加価値と優良顧客つくり戦略


小田原鈴廣本店

鈴廣

石綿 取締役


正月に駅伝のランナーが駆け抜ける箱根への登り口、登山鉄道の風祭駅近くに「里」が広がっている。
「かまぼこの里」である。
地元の蒲鉾メーカー、鈴廣が経営する土産物店やレストラン、博物館などを総称してこう呼ぶ。
箱根への往き帰りに立ち寄るスポットとしてひっきりなしに観光客が訪れる。
その数、平均で3千から4千人、休日は1万人近い。
300台の駐車場に入りきれないクルマが列を作る。

「とくに休日は三世代のお客様が多いですね。
若夫婦とお孫さんとで来店され、食事やお買い物の支払いは「GS世代」というパターンです。
店内あちこちで試食したり地ビールのつまみで板わさを召し上がったり。
2007年の本館改築で店が広がり、かまぼこはもちろん、和洋菓子や箱根の民芸品など幅広い品ぞろえをしたことで滞在時間も長くなり、顧客単価も上昇しました」
と石綿学取締役は語る。

「ただ、うちとしてはやみくもに販売品目を増やしたというわけではありません。
たとえば洋菓子に使うフルーツ。
これはかまぼこを作るときに出る魚のアラと地ビールの搾りかすで肥料を作り、その肥料で栽培してもらったフルーツを使っているという循環のストーリーがあります。」

「GS世代」でにぎわう店内

「かまぼこの里」では土産物などの購入や食事以外にも、職人の仕事を見たり、博物館では実際にかまぼこ作りを体験することもできる。
ここは一種テーマパークであり、観察していると「里」の中を回遊している家族が多いことに気付く。
「かまぼこに触れる機会を少しでも多くしたいという思いでかまぼこの里つくりに取り組んできました。
かまぼこの消費は伸び悩んでいますし、そもそも頻繁に召し上がってくださる方は年配の方に偏りがち。
このままでは未来がない、若い人たちに正月のおせち料理以外でもかまぼこに親しんでもらいたいという切実な気持ちがあります。」

石綿さんの言葉通り、手作り教室では自分で作ったかまぼこを頬張る子供たちの笑顔が印象的だし、博物館に展示されたかまぼこの板に描いた絵の作品に見入る家族連れも多い。
「子供に愛される里つくり」は一定の成果を収めていると感じた。
「GS世代」を核としながらも、三世代にウイングを広げ、若い層への浸透も目指してゆく。
箱根の麓に広がる「里」に、生き残りを賭けるかまぼこメーカーの緻密な戦略があった。

体験教室

鈴木 副社長

相模湾の豊富な魚を材料にした小田原のかまぼこ作りは鎌倉時代のころに始まったという。
この地で鈴廣がかまぼこを作り始めたのは1865年(慶応元年)、明治維新の少し前だ。

「現在の地に本社を構えたのが昭和37年、ドライブインの先駆けで展望台のある店をつくりました。
その後工場や、レストラン、ビール蔵などを加えて、
本館を改築した2007年から「かまぼこの里」
と名乗り始めました」
副社長の鈴木悌介さんはこう語る。

10代目の社長であるお兄さんの博晶さんと二人三脚で会社をリードしている。
鈴木さんは「かまぼこ業界は絶滅危惧種」だと言う。
「練り製品の国内生産量は昭和48年の120万トンをピークに長期低落傾向でいまや半減、メーカーもピークの半分以下に減りました。
メーカー鈴廣として、スーパーなど従来からの販売チャネル向けの売り上げは大きな伸びは期待できません。
そうしたなかで、この「かまぼこの里」を中心とする直販が、全売り上げの半分くらいを支えています」

とくにこの業界の悩みは売り上げがおせち料理などに偏ることだ。
鈴廣でも年商の大きな部分を12月の売り上げが占めている。
その点「かまぼこの里」は箱根観光に来るお客さんを対象にしているから、一年を通じて安定している。
紅葉の11月をピークに、新緑に、夏休みにと首都圏の奥座敷は通年観光が売り物だ。
特に近年は「GS世代」が定年となり休日以外でも来てくれるのだから、会社にとって「かまぼこの里」は大黒柱なのだ。

「なぜ、かまぼこの売り上げが落ちたのか、食の多様化、和食機会の減少が大きな理由です。
そしてもうひとつは、おいしいかまぼこが減ったことも理由だと思っています」
低価格商品がばらまかれたことで、かまぼこ本来の味を賞味できなくなったことが、かまぼこ離れに拍車をかけたと鈴木さんは指摘する。

「メーカーとして本物のかまぼこの味を追求したい。
とくに「GS世代」のみなさんは本物の味がわかっていただける世代だけに、これが本物のかまぼこだということを訴えたい。
そしてそれを若い世代にも教えていただけるならば、なおありがたいと考えています」
そして、鈴木さんは「うちの一押しはなんと言っても『板かま』」だという。
揚げや焼きや一口サイズなどさまざまなかまぼこがある中で、あえて「板付き」を押すのはなぜなのだろうか?

「もちろん店には一口サイズや揚げかまぼこなど様々な種類のかまぼこを置いています。
でも定番の板付きのかまぼこが一番シンプルでおいしい、と思います。
そもそもかまぼこがなぜ板付きかといえば、製造過程で蒸したり冷やしたりする際に出る余分な水分を板が吸い取ってくれるので、腐りにくいという意味があります。
そうした自然のバランスが、味を引き立てているのです」
鈴廣の人気商品に「切れてるかまぼこ」というのがある。
「包丁要らずで便利という意味もありますが、厚さ12ミリに切って召し上がるのがもっともおいしいので、その厚さに切って差し上げているというのがうちがお伝えしたいことなのです」
板付きのかまぼこを厚さ12ミリで食べてほしいという思いが、ヒットにつながった。
さらに板付きかまぼこへの強い思いが「板わさエリアキャンペーン」を生み出した。
かつての江戸の粋な道楽に「蕎麦屋で板わさを肴に、ぬる燗で一杯」
というのがあったが、いまや「板わさ」さえ死語になりかねない。
そこで新宿や赤坂などエリアごとに期間を決めて、蕎麦屋を中心に鈴廣のかまぼこの板わさをメニューに加えてもらっている。
「4年で東京と横浜、川崎で蕎麦屋さんだけでも300軒を超えました。
板付きのかまぼこにわさび醤油で召し上がっていただくというシンプルな楽しみが失われていました。
「GS世代」はこうしたメニューを見ると嬉しそうに注文していただける世代です。
また若い層にはオリーブオイルなどを使ったイタリアンテイストの板わさを提案しています」

新しい食習慣の中で、どう鈴廣は生き残るのか?
「レシピ提案などで需要を作り続けなければなりません。
また私どもが培った魚のタンパク質を加工する技術を活かせないか、と考えています。
食糧不足が言われながら網にかかった魚のかなりの量が食用にされず捨てられています。
そうした魚を無駄にせず錠剤状に加工した『サカナのちから』をつくりました」
アミノ酸や魚骨カルシウムを補給したいという人を当面の対象として「かまぼこの里」はもちろん通販、ドラッグストアなどで販売しているが、将来は食糧難、栄養不足に悩む国の人たちにも食してほしい、
と鈴木さんは語る。

「GS世代」を主力顧客に据えながら、さらにどうかまぼこを食べる機会を増やし、顧客の若返りもはかるか。
「かまぼこの里」は鈴廣にとって次の一手を生み出す孵化器でもある。

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