「西村晃のマーケティングの達人 大繁盛の法則」企業経営・売上アップのヒントを提供

テーマ別企業紹介

国内生産にこだわる東京下町の繊維産業



<美光>

みなさんがあまり知らないと思われるヒット商品がある。
「のびのびショーツ」だ。
「年間30万枚以上販売しています。
お尻をすっぽり包み込み、体の動きに合わせてフィットします。
しゃがんでも背中が見えにくいのが特徴です。
カノコ編みという特別な編み方で編んでいるので、縦、横、斜めと360度伸び、ふくよかな人にも安心して履いて頂けます」
こう語るのは、東京両国に本社がある婦人下着メーカー「美光」の播谷勉営業部長だ。

美光は百貨店やスーパー、専門店での販売のほかカタログ販売やネット通販などで下着の販売をしているが、主な顧客は「GS世代」だ。
「特にうちの特徴はギフト需要が多いことです。
極端にデザインに凝るものではなく、日常使うシンプルなデザインで何枚あってもいいものですし、サイズも幅広く取り揃えていることから、無駄なく多くの方に対応できることで選びやすい商品として支持されています」
(播谷さん)

大ヒット中の「のびのびショーツ」

とくにこの世代に美光が安定した売り上げを得ているのが通販雑誌による販売だ。
「GS世代」御用達の雑誌として『癒しの工房』を98年に創刊、8万部の季刊だが、これによる販売が売り上げ全体の半分以上を占めている。
「『病は、冷えから』をテーマに商品提案をするなど「GS世代」に絞り込んだことでヒットが生みやすくなっています」と播谷さん。
例えば『ふくらはぎサポーターゲートル』も現在ヒット中の商品だ。
「これはふくらはぎにマッサージ効果を与え、血流を良くしてだるさなどを和らげる効果があります。
東日本大震災の時に体育館などで寝泊りされていた方に寄付したところ効果があったと喜んでいただきました」
(播谷さん)

一定の年齢層に向けたカタログ販売雑誌だけに、的を絞ったマーケティング戦略を組みやすいのが特徴だといえる。
若い年齢層の下着は色や機能も流行に追われがちで、広告宣伝もコストがかかるし売れ残り商品の処理も大変だ。
その点シニア向けの商品に絞っている美光は高齢化を追い風にしてきた面もある。

カタログは顧客を絞りやすい

田中 大三 社長

実は「美光」は最初から「GS世代」対象のビジネスだったわけではない。

「美光」は1969年に東京両国で創業した。
創業者の田中大三社長は最初「ミッキーマウス」のキャラクターに目をつけ、これをショーツにプリントしたら売れる、と考えた。
まだキャラクタービジネスはほとんど根付いていなかった時代だ。
まず「ワーナーブラザーズ」の版権を獲得、ポパイ、ウッドペッカーなどを下着にプリントした。
その後ディズニーの版権も得てついにミッキーマウスの下着を実現する。

脱サラで始めた会社は一気に拡大、年商36億円を記録する。
しかし、転機が来た。1983年東京ディズニーランドの開業である。
「招待され見に行きました。
あのスケールの大きさ、そしてキャラクターに直接触れて写真も撮れる。
この施設は必ず成功する、そしてキャラクター商品はこの施設の中で買うことになるから、施設以外では売れなくなるに違いない。
そこで視察の翌日、社員にこれまでのキャラクタービジネスをやめると発表したのです」
(田中社長)

かつてはキャラクター商品を中心にしていた

キャラクターに頼らず、自分達でブランドを立ち上げるという決断だった。
「モノつくりのこだわり、ぬくもり・心地よさへのこだわり、国内生産へのこだわりでした。
人気キャラクターに頼らず商品開発力で勝負しなければ、という危機感をバネに会社を引き締めたのです」(田中社長)

この転換が実を結び、遠赤外線放射素材を使った冬の暖かい肌着や、シンプルな肌着の胸元に豪華なレースをあしらった肌着などを開発、いわゆる「ババシャツブーム」の火付け役になる。
また牛乳を原料にした東洋紡との共同開発繊維『シノン』、カニの甲羅から素材を取る富士紡との共同開発商品『キトポリー』などを次々に発表した。

「海外生産比率の高まりで廉価品がどんどん流入、また販路も大手スーパー・量販店全盛の時代になって、私たちも方向転換を迫られています。
カタログ販売やネット直販を伸ばしているのも、粗利率を高め、店頭販売では捌けなくなった商品を自らの企画性で販売するための方策です。
メーカーでも、直接お客様に提案販売する力を身に付けなければ生き残れません」
(田中社長)

いま経営課題の一つに海外生産がある。
肌着業界の97%が海外生産といわれる中で美光は国内生産にこだわってきた。

田中 秀治 専務

「奈良や大阪、九州など西日本の協力工場で生産しています。
コスト的には厳しいですが、ここにきてジャパンブランドへの回帰志向を感じます」
こう語るのは専務の田中秀治さんだ。
「1年前くらいから高価格帯の商品への注文が増えています。
例えば10年ほど前から手掛けてきた海島綿(かいとめん)という商品があります。
これはカイザー編み機という特殊な編み機を使用し、軽くて柔らかく綿100%でできている肌着です。
海島綿は、年間の生産量が綿全体の10万分の1以下という希少価値です。
一般の綿の2〜3倍もする高額な商品ですが注文が増えています」
(田中専務)

こうした商品は、もともと低価格商品が多い東南アジアからの観光客の間でも好まれているという。
「百貨店など海外観光客を対象にした場所に商品を卸していますが、注文が増えています。
外国人があえて高価格の「メイド・イン・ジャパン」のタグを確認して購入しているといった情報が次々と入っています」
(田中専務)

希少価値の海島綿の商品の注文が増えている

高品質の商品を販売するために「美光」では新たな取り組みを始めた。
「今年6月に、本社一階に直営店をオープンしました。
お客様に直接商品を見て、触っていただきたいと思いました。
これまでは婦人下着を販売していながら男性の営業担当が多く直接お客様の声を聴く事ができませんでした。
店を持ち、じかにお客様と情報交換したいと考えました。
カルチャースクールなどとして店舗を利用していただき「GS世代」の交流の場にしていただきたいと思います」
(田中専務)

これまでもシニア向け商品の比重が高かった美光だけに、顧客層のさらなる高齢化にどう対応するかも課題だ。
この実験店舗が単なる下着販売にとどまらず、地域コミュニティを育ててゆく役割の場を担えないか、そこに美光の将来がかかっている。

今年6月に開店した直営店
店内にはシニア層向けを中心に商品が    並ぶ

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